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旧東海道沿いにある大井神社(静岡・島田市)は、大井川の水の神様として信仰されています。珍しいご利益や文化財もあるので、初詣を充実させるために事前に知っておいてもらいたいポイントをまとめました。
全国の旅人が祈った神社
大井神社があるのは島田市の中心部です。街中にありながら、大井川から地下水を引いた池にはコイが泳ぎ、小川が流れ、背の高い木々に囲まれています。
歴史書に大井神社の名前が現れるのは865年。大井川の水害に度々見舞われ、上流から下流へと移動するのに伴って、水神信仰も広がりました。現在の場所へ遷ったのは江戸時代でした。
禰宜(ねぎ)の片川大輝さんは江戸時代から宮司を務める片川家の5代目です。
今回、片川さんに大井神社の珍しい特徴の数々を教えてもらいました。代々口伝えされてきた貴重な話も聞くことができました。
珍しい「帯祭り」
島田は大井川を越える人たちで栄えた東海道の宿場町です。
大井神社 禰宜・片川大輝さん:
江戸時代、川を越えるのは命がけでした。地元の人のみならず、参勤交代の大名など多くの旅人が旅の安全を祈って神社を訪れました。そのため神社はいろいろ地域の文化や人の影響を受けて発展していったと考えられます
その現れの一つに、大井神社の祭りで日本三奇祭の「帯祭り(おびまつり)」があります。
花嫁が挨拶まわりをする風習から、大奴(おおやっこ)の刀に花嫁の身代わりとして帯を巻いて行列をするようになったと言われる祭りです。
大井神社・片川さん:
江戸時代から続くこのお祭りは、各町内が江戸から三味線や長唄の家元をお招きするようになり、競うように演目を発展させていきました
こうして行列や踊り、子供の日本舞踊や歌舞伎の演目など、豪華絢爛な元禄絵巻のように発展していきます。
珍しい三柱の女神様
珍しいのは祭りだけではありません。
女性の帯が祭りになるぐらい、大井神社は女性へのご利益がある神社です。なぜなら御祭神が全て女神様だからです。
祀られているのは、水の神「ミヅハノメノカミ」、土の神「ハニヤスヒメノカミ」、日の神「アマテラスオオミカミ」の三女神です。そろって女神様という神社は、全国的に稀なのだそうです。
ご利益は安産や、女性や子供の守護などで、美に関するご利益もあるそうです。
もちろん大井川を無事越えられるよう祈願したことから交通安全や旅行安全、水の神様として生命生産、祓い清め、鎮火などの幅広いご利益があるとされています。
珍しい歴史的文化財を発見する
境内には芸術的、歴史的にも価値が高い見どころがあります。お参りに来たら、ぜひ境内を一周してみましょう。
まずは入口から。南側の表参道には、江戸時代に川越えを助ける職に就いていた人たちが造った石垣が残っています。人の手でこれだけの量が運ばれ、いまも崩れない石垣を見ると、当時の人の丁寧さが伝わってきます。
表参道を抜けた先の橋を渡ると、大井恵比寿神社前に手水鉢があります。気づかない人もいるくらいさりげなく置いてありますが、これもとても貴重な物で、江戸幕府8代将軍徳川吉宗の時代のものです。
大井神社・片川さん:
享保の改革で玉川(多摩川)の治水にあたっていた有力者たちが奉納したもののようです。270年以上前から川の神、治水の神として全国から信仰を集めていたことを物語る史跡といえるのではないでしょうか
拝殿に進んでお参りをしたら、ぜひ脇道に入って本殿の彫刻を横からのぞいてみてください。全貌はわかりませんが、一部をみることができます。
この彫刻は、国宝級の神社の彫刻に関わってきた立川流の名工・立川昌敬によって彫られた貴重な作品で、遠目でも細かい技術がうかがえます。
御祈祷で拝殿に入る方は、ぜひ右横にある絵画にもご注目を。
島田市出身のライブマンガペインター・内田慎之介さんが奉納した作品です。壁に巨大なマンガを描くアーティストとして知られる内田さん。大井神社の神様をイメージして描いた龍は、その迫力に圧倒されてしまいます。
御祈祷をしなくても、時間が合えば見せてくれるので受付にたずねてみてください。
珍しい御朱印とお守り
参拝の後は、水の神様ならではの珍しいお守りやご朱印を手に入れましょう。
1~2月の初春限定の、水のように透き通った透明の御朱印とお守り「水御守」もあります。
珍しいお守り「美守」もあります。心も体も美しくありたい方を応援してくれる女神様のお守りです。美容や恋愛祈願する方におすすめです。
境内には他の神様も
境内にある他の神々もご紹介します。初詣の際にぜひ訪れてみてください。
本殿のすぐ左手には、学問の神様、菅原道真公を祀る大井天満宮があります。その前には大きな牛の像が鎮座しています。牛は菅原道真が愛でていたと言われ、参拝者たちは自分に見立てて、よくなりたい箇所を触っていくので、よく触られる部分は色が落ちています。受験生はぜひ訪れてほしいお社です。
その隣には、島田で大流行した疫病を退散するために、鹿島地方からお呼びした春日神社があります。健康祈願や長寿祈願をしたい人は、こちらのお社にも参拝を。
大井神社・片川さん:
春日神社と共に鹿島踊りも伝わってきたので、帯祭りの行列には鹿島踊りも登場します。島田に到着した時に少しアレンジされています。書物ではなくずっと踊りで継承されいる鹿島踊りは県の無形民俗文化財にも指定されています。
商売繁盛を願う方は、大黒様と恵比寿様をお祀りする大井恵比寿神社をお忘れなく。大黒様と恵比寿様のように笑顔になれる開運招福祈願をしてみてくださいね。
親しみやすそうな神様もいました。大井天満宮と本殿の間の脇道を進むと、左側に「田のかんさあ(田のかみさま)」がいらっしゃいます。
農業で発展した島田市では、今も田の神様は大事な存在です。
他にも境内にはカエル、カメ、河童など、水辺に暮らす生き物の置物があります。大井神社が水で潤っていることを教えてくれるように感じられます。
直木賞作家・永井紗耶子さんゆかりの地
2023年に「木挽町のあだ討ち」で直木賞を受賞した永井紗耶子さんは島田市出身。受賞作品の題材も「帯祭り」からインスピレーションを受けたと語っています。
大井神社・片川さん:
永井さんが見ていた当時の「帯祭り」は組織化され、今よりも厳格な雰囲気でした。江戸時代から続く厳しい決まりを守る人々の風格が色濃く残っていました。そのような伝統的なお祭りは珍しかったと思います
当時の写真をみると、そろいの法被で姿勢を正して並んだ人々や、屋台で見得を切る踊り子、威勢よく神輿を担ぐ姿など、若者たちの粋な姿が残っています。
「木挽町のあだ討ち」に登場する江戸の人々の粋な姿は、帯祭りから着想を得て描かれたのかもしれません。
正しい初詣の参拝方法
最後に、片川さんに大井神社の初詣の仕方を教えてもらいました。
まずは本殿前の祓戸神社へ行きましょう。ここで清めてから、拝殿に行ってお願いをした方が届きやすいとされているそうです。
初詣は12月31日の午後11時頃から、だんだん列ができるので、午前0時ぴったりに初詣をしたければ早目に並ぶことをおすすめします。龍神太鼓が打ち鳴らされ、新年の始まりを知らせてくれます。
拝殿にむかったら、いきなりお願いごとをせずに感謝から伝えましょう。
大井神社・片川さん:
新年の参拝は、自分のお願いを伝える前に一言感謝から始めた方が神様はよく聞いてくれます。「昨年はありがとうございました、今年もよろしくお願いします」と、感謝のご挨拶から始めてみてください
お賽銭を入れたら鈴を鳴らします。二礼し、二拍手。感謝とお願いを神様に伝えたら、また一礼をします。
二拍手をするときは、両手をぴったり合わすよりも、どちらかの手を少し引いてずらすときれいな音になるそうです。神様によく音が聞こえるように叩いてみましょう。
御朱印は1月31日までのお正月限定版があります。
1月中は帳面への記帳はしていないのでご注意ください。おみくじは7種類。「女神様のおみぐじ」や「お守り付みくじ」、「こどもみくじ」など自分が祈願したい内容に合わせて選べます。
お参りの後は、更なるご利益をもらいに境内を回ってみてください。
■施設名 大井神社
■住所 静岡県島田市大井町2316
■問い合わせ 0547-35-2228
取材/麻衣子